ロックダウンが解除されたドイツ
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴う緊急事態宣言が、兵庫、大阪、京都の3府県で解除されました。1日あたりの感染者数も減り、このまま収束していくかのような期待が広まっているようですが、医療現場ではいまだに厳しい状況が続いています。
そんな日本の数週間先を進んでいるといわれているのが、ドイツです。
5月21日の時点で、近隣諸国の致死率(感染者のうち亡くなった人の割合)がフランスは19.5%、イタリア14.2%、スペイン12%であるのに比べ、ドイツは4.6%と明らかに低く抑えられています。
さらに、3月中旬から続いてきた事実上のロックダウンも解除。メルケル首相は5月6日、新型コロナウイルス感染拡大阻止のための制限措置を大幅に緩和し、全店舗の再開を許可すると発表しました。サッカーの試合も、無観客での再開は許可されています。
それまでにも段階的に制限の解除は行われてきており、4月下旬から書店や小規模な店舗の営業再開、5月上旬からは学校や博物館などの文化施設などが再開されてきました。
日本からドイツへ入国できるのは6月15日以降に
また、現時点で新型コロウイルスの封じ込めに成功していると見られることから、3月中旬から続けられてきた国境管理も徐々に緩和され始めました。
ドイツ連邦内務省が5月14日に発表したプレスリリースによると、ルクセンブルクとの間の暫定的国境管理は5月15日をもって終了。デンマークとの国境における国境管理についても、終了する用意があるということです。
またフランス、イタリア、オーストリア、スイスなどのシェンゲン協定加盟国との国境管理について、ドイツ連邦内務省のゼーホーファー大臣は「2020年6月15日をもって終了させるよう努める」と発表。暫定的な国境管理の対象となる国境を縮小するとともに、国境管理を継続する場合にも入国を許可する事情を緩和する予定とのことです。
EU域外国境に関しては、欧州委員会の提案に応じて第三国からの入国制限が6月15日まで延長されることになりました。
なおドイツ連邦を構成する16の連邦州に対しては、入国許可者および帰国者に対する隔離規定が定められていますが、必要に応じて改正されることが推奨されています。気になるのは日本人の受け入れがいつから始まるかですが、これは6月15日以降になります。ただし「14日間の隔離措置は将来的には、第三国からの入国者に対してのみ指示されるべきであると思料される」とのことなので、14日間の隔離は避けられない状況です。
ドイツで働く循環器内科医のレポート
5月24日の時点で、ドイツの感染者数は178,281人。日本は16,550人なので10倍以上です。こうした状況にも関わらず感染拡大を抑えることに成功した理由は、いったい何なのでしょうか。
そこで参考になるのが、ドイツの循環器病センター「Herzzentrum Brandenburg」で、循環器内科医として働く岡本真希先生のレポートです。
レポートが公開されたのは4月19日。この時点でドイツの感染者数は143,160人にものぼっていましたが、岡本先生が在籍する病院では「増えゆくCOVID-19患者や緊急処置が必要な患者をすぐ受け入れられるキャパシティーを保って」おり、余裕さえ感じるほどだったとのこと。日本の現状と比べると大きな違いです。
そのようなキャパシティーを保つことができた理由について、岡本先生は「かなり早い段階からロックダウンを行なったことに加え、病院の受け入れ準備も平行して行ったことが、患者の重症化を防ぎ、死亡者数の抑制に大きく寄与している」のではないかと推察。
ロックダウンについては先述の通りですが、病院でも3月上旬には近隣諸国での感染拡大を受けて、2〜3週間のうちには新型コロナウイルス感染患者の受け入れ態勢が整ったといいます。日本と比べると、圧倒的なスピード感ではないでしょうか。
感染患者専用病棟の設置と同時に徹底されたゾーニング
感染症の患者を受け入れるうえで、重要なのがゾーニングです。
岡本先生が在籍する病院では、3月16日以降は入院予定の患者であってもよほど状態が悪くない限りは受け入れを行わず、入院中の患者もできる限り帰宅させ、「数日のうちに一気に病棟はガラガラに」なったとのこと。
その余裕ができた間に、新型コロナウイルス感染患者専用の受け入れ病棟の配備をはじめ、院内の感染管理を統括するタスクフォースの配置や、救急患者と定期通院患者と入口・導線を分ける仕組みづくりなどの準備が行われたそうです。病院外には、咽頭スワブ検査用のテントが張られたといいます。
こうした準備は、一部の病院に限らずドイツ全土で一斉に行われました。
約40,000床を実現。圧倒的な数を誇るドイツのICU病床数
また、新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れる病院において重要なのが、ICU(集中治療室)の病床数です。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の見解として厚生労働省が発表したところによると、これまでのデータから「感染が確認された症状のある人の約80%が軽症、14%が重症、6%が重篤となって」いることが明らかになっているそうです。
重傷者や重篤者には人工呼吸器による呼吸管理や、ICUでの集中管理が行われることが多くなるため、ICU病床数を増やすことは欠かせません。
ドイツでは、今年3月の時点ですでに人工呼吸器を備えたICUが25,000床ありました。これは欧州でもっとも多く、人口10万人あたりに換算すると29.2床となります。
イタリアは12.5床、スペインは9.7床、そして日本は5床といわれていることに比べれば、ドイツのICU病床数がいかに充実しているか理解できるでしょう。
さらに、シュパーン連邦保健大臣が4月17日に発表したところによると、ドイツの
ICUベッド数は約40,000床に達しているとのことです。
先にご紹介した岡本先生の病院では、「通常のICUとは別に、COVID-19専用のICUを配備」したそうです。
まとめ
ドイツの病院では素早い対応やゾーニングの徹底、ICU病床数の充実といった要因により、新型コロナウイルス感染患者を受け入れるうえでの十分なキャパシティーを保持しているようです。
医療崩壊の危機が叫ばれる日本でも、見習うべき点は多いのではないでしょうか。
当院でも新型コロナウイルス対策としてできる限りの施策を進めていますので、改めてお知らせいたします。
出典・参考
チャートで見る世界の感染状況 新型コロナウイルス(日本経済新聞)
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-chart-list/
【緊急】ドイツにおける新型コロナウイルス対策(在デュッセルドルフ日本国総領事)
https://www.dus.emb-japan.go.jp/itpr_ja/coronavirus_00007.html
【ドイツ便り】ドイツの臨戦態勢から学ぶ院内感染の防御策(m3.com)
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/756632/
新型コロナウイルス感染症の現在の状況について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10914.html
新型コロナ重症者対応、臨時に「ICU点数増」「ICU以外での特定集中治療室管理料等算定」など認めよ―集中治療医学会・救急医学会・日病(グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン)
https://gemmed.ghc-j.com/?p=33465
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html
新型コロナ最悪シナリオを8年前に想定したドイツの危機管理(日経ビジネス)
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/042000163/